『顕示的消費の経済学』を読んで
『顕示的消費の経済学』(Roger Mason)を、主にその中で参照されるものを読みながら、自分なりの消費者心理のモデルを考えてみる。
■顕示的需要の心理内の説明
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<b>Pigou</b>
顕示欲と結び付く差別化はある人々との類似性と他の人々との差異性の結合によって形成される。
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次はこれを発展させたもの。
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<b>Leibenstein</b>
顕示的消費を説明する二つの対立軸があり、それぞれ正負に名前をつけ、一つの軸は価格効果とヴェブレン効果、もう一つの軸はバンドワゴン効果とスノッブ効果と呼ぶ。
<b>value effects</b>価格が低くなることで大きくなる欲望
<b>Veblen effects</b>価格が高くなることで大きくなる欲望
<b>bandwagon effects</b>「同好の士」であることへの願望
<b>snob effects</b>唯一無二の存在であり、「一般大衆」と違いたいという願望
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Veblen effects と snob effects は結果的に需要の総量(数)を小さくしてしまう。(ただし、出荷個数が減っても出荷総額が増えることはあるだろう。)
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<b>Woods</b>
顕示的消費財は二種類に分けることができる。
<b>威信財</b>リーダーシップを獲得するための象徴的な財
<b>地位財</b>リーダーシップに服していることを示すための(メンバーシップを示すための)財
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私の考えを述べる。
基本的に、「同好の士」と「唯一無二」への欲求を分ける必要はない、「ある地位にありたい」という地位表示の欲求があるだけだと考える。ただし、ある地位にあることへの「安心感」が、その具体的消費を左右すると考える。いってみれば、Lebenstein の同軸上に二つの欲求をおいたのと同じ考え方をする。
「唯一無二」への欲求と見えるのは、「ある地位にふさわしい能力」がないことへの不安またはその能力のはっきりした基準がわからないことへの不安から、地位表示財について過剰に反応するためだと考える。「同好の士」への欲求に見えるのは、「地位にふさわしい能力」が十分にあると安心しているために、自信のある評価が下せるからだと考える。
なお、「顕示的慎み」については、「一般市民という地位にふさわしい能力」への欲求と考える。
もちろん、これは自分についての欲求であるが、それが他人に向けられることもあり得る。他人に「ある地位にふさわしい能力」があることを示すために、プレゼントをして反応をみたり、能力がないことを示すために、勝負を挑んだりする。
社会から見た地位(個々人にとっての客観的地位)は多次元的であるが、人は、人間の全体評価での上下(階級)を判断したいという欲求も持つとも考える。このような階級判断にとって、ある能力が正と負のどちらに働くか(働かないか)は、個人の中ではある時点において決まっているだろう。
まとめると。
○地位によって示される(と信じられている)能力が多元的にある。
○それぞれ能力に対する安心感は人によって異なり、これによって顕示欲の大小が左右される。
○顕示欲の発露は内向きと外向きがある。
○人は階級判断をしようとする。
○階級判断への能力の寄与は人によって異なり、この階級判断における階級を最大化しようと行動する。(必ずしも能力を最大化しない。)
■需要の「核」 − 具体的な消費対象の決定に寄与するもの
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<b>Lauman and House</b>
地位表示のためには、誇示方法への配慮(趣味の良さ)が必要である。
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つまり、地位表示には評判だけでなく、何らかの「合理」的な良さを連想させる「核」が必要であり、それを「上級者」の消費から判断している。
「核」は上でいう「能力」の証明である。
ここでいう「合理性」があるとは、「自分が顕示したい方向の良さの証拠として他人が認めてくれる(と自分が信じられる)何かがある」または「良さに対する納得可能性(accountability)がある」ということである。
よって、「合理性」は時代によって変化するし、もちろん美意識にフィットしたり、上流階級へのふさわしさを増すものも「合理性」があると言える。この「合理性」は倫理的常識にも影響され、ときに「顕示的慎み(Belk and Polloy ?)」をも生む。ここでは慈愛も能力のうちである。
十分な時間がないために、または、判断に自信が持てないために、判断を他人に委ねることがある。「上級者」とは、そのような判断ができると信じられているプロの消費者(プロシューマー)である。これはかなり強力なもののようで、例えば「毛沢東が唱えているから思想解放をしなければならない」などと矛盾した (思想解放を叫びながらそもそも毛沢東思想に縛られていることを前提とする)ような言説が平気でなされることからもわかるだろう。いわゆる普遍宗教の信者にもこういった矛盾を平気で叫ぶ人間がいることは、ご存じのとおりである。
このような「核」が存在しないという主張もある。
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<b>Grossman and Shapiro</b>
わかってする模造品への需要は、品質への需要ではないことは明白であり、純粋な地位表示への需要をあらわしている。
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しかし、この主張は信じられない。たとえばバッグの模造品は、「品質」をまったく無視しているのではなく、その「品質」の中の「デザイン」にのみ価値を見いだしているだけなので、その「デザイン」を保っていれば、それ以外の「品質」は劣っているにせよ、ある程度の権威を(他人に対して)有すると考えられているのではないだろうか。
まとめると、
○地位によって示される(と信じられている)能力が多元的にある。(上で重複)
○能力に関する上級者がいる。
○人によって「核」となる能力証明は異なる。
■「特徴の束」理論
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<b>Lancaster</b>
財は効用の直接的な対象物ではなく、財が持っている属性や特徴こそが、効用の対象となる。消費者は財同士の「特徴の束」を比較して選択を行う。その特徴の例として上であげたような顕示性がある。
仮説 1.財は特徴の束である。
仮説 2.ある特徴が複数の財に共通して現れうる。
仮説 3.財の合成結果は、財の特徴の束の合成結果とは異なる。 (例:パーティの需要は、単なる交流機会と食事への需要の和とは違う。)
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宣伝によって、実物を見ずに我々は理想的な財を想像するが、所有の現実性のある財を見て、「思っていたものとは違う!」と、理想的な財を代替すべき実物との代替性の開きに驚くことがある。このとき財のどの特徴が欲しかったかといわれても答えられないことがある。
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<b>私の考え</b>
代替性の理論。
特徴をいちいち抽出していると考えるのではなく、何らかの目的に対する代表的な財や抽象的で理想的な財(Ideal)への代替性を認識していると考える。
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一つの財が複数の財の代替性を満たすと考えられるため、事実上「特徴の束」理論を包摂することが可能となる。
合成結果がまったく新しい代替性を産み出すのは、「特徴の束」理論と変わらない。
抽象的で理想的な財の定義が難しい場合は、特徴の定義が難しいことに相当するが、このような場合でも、具体的な財に対する代替性を考えることができるのが、この理論の強みである。一方、機械的に財そのものから観測できるのは特徴のみであって、代替性そのものではないのが、代替性理論の弱点である。
ただし、特徴という言葉の意図からは外れるが、一つの財にのみ適用できる「特徴」などということも、概念的には考えることができる。具体物であることを「特徴」といえ、ある特徴を「理想物の代替」と置き換えられるのだから、「特徴の束」理論と代替性理論の違いは用語法の違いのみと言えるかもしれない。
■マクロ経済的または倫理的考察
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<b>Veblen</b>
「革命」を求めるのは貧困ではなく、顕示欲が満たされないことからくる中産階級のストレスである。
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一つの考え方として
何を消費するのかに作用するのは顕示欲だが、所得をどれだけ消費に回すかを決定するのは、長期的に消費を持続可能にするための将来所得への期待である
とも言えよう。
しかし、「将来所得への期待」は決して「顕示欲」と独立ではない。何を消費するかによって生産構造の変化が起きるために、顕示欲から将来所得が影響を受けるし、将来所得の必要量の算定には、現在の消費のどこまでを将来不要な顕示的消費とするかを考慮せねばならない、すなわち、将来所得への期待が、顕示欲の優先順位に影響するのである。
地位表示財が増えることにより、「将来所得への期待」がそれまで顕示してきた地位を維持するに不十分となったとき「革命」を求めるのかもしれない。
生産関数における「陳腐化」は需要側の変化によっておこる。この生産側に需要の要素を含ませることで、近代経済学は何でも説明できるように見せているだけではないか?
■備考
●顕示的消費の理論が不遇であった理由
顕示欲を「見透かされた」と消費者が萎縮してしまうことを避けたのではないか。
●奢侈防止法の効果
奢侈品への抑圧が、消費者間の合理性に関する情報交換への機会を奪うと同時に、密売による独占的利潤を生み出すため、悪質な業者の乱立を招く。
●この理論の具体例
都会と田舎では顕示的消費に差があるのは、見知らぬ人同志の都会ほど、自らのアイデンティティを証明する機会が多いというのが例になるのでは?
更新:00/12/25,01/01/02,06/02/01
初公開:2006年02月01日 03:13:27
Links:
顕示的消費の経済学: http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4815803919 (hbm)